初めての生落語 志の輔師匠の紺屋高尾
2012年1月7日(土)立川志の輔師匠が毎年渋谷パルコでやっているという『志の輔らくご』に行って来ました。
生まれて初めての生落語。
私にとって落語と言えば、飛行機に乗った時 機内ラジオのチャンネルをピコピコいじってると ふと瞬間的に流れてくるモノ。気まぐれに聴いてみたりね。そんなもん。
面白さは良く分からないけど、存在は気になっていて、初めて意識したのは、高校生の時に有隣堂にどかーーと並んで売ってた立川談志師匠の『ひとり会落語CD全集』だった。
- アーティスト: 立川談志
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 1996/09/10
- メディア: CD
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
「そう言えば、落語って何なんだろう。しかもこのタチカワダンシって人は賛否両論ある人らしいけど、すごい天才とか言われてるのを聞いたことがある。でもママに聴いても「下品な問題ある人。」としか言わない。(←本当w。)それって落語なの?それってどんな人なの??」
その時は村上春樹とか小説ばかりを読んでいて、本屋と言えば文庫本のエリアにしか行かないんだけど、文庫本のとなりのエリアがそういうCDとか落語関係とか置いてた感じだったんだな、どうも。本屋に通うたびに目に付くから「いっそ、このタチカワダンシさんのCD全集2万円位だして、落語デビューするかな。すごい人らしいし。」
でも当然買わず。だって貧乏高校生が頑張って2万出して好きじゃなかったら目も当てられないしね。
途中、中国で『タイガー&ドラゴン』を見たり、春風亭昇太さんの『はじめての落語』を買って聴いたりはあったものの、ずっとどうしたらいいか分からずスルーしてきた。
はじめての落語。 春風亭昇太ひとり会 (ほぼ日CDブックス)
- 作者: 糸井重里,春風亭昇太
- 出版社/メーカー: 東京糸井重里事務所
- 発売日: 2005/05/16
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 15回
- この商品を含むブログ (29件) を見る
そんな状況で、昨年2011年の10月、落語好きの人に出会ったので、初めて聴く落語は何がいいですか?と質問してみたところ、
『立川志の輔さんって分かる?試してガッテンの。あの人、テレビに出てる時は落語やらないからあんまり知られてないのかもしれないけど、実は落語家だから。あの人はすごいよ。創作のお話しと古典を両方やる数少ない落語家さんで、初めての人でもとても分かりやすいの。でももの凄いですよ。ちなみにお師匠さんはあの有名な立川談志師匠です。』と。そして『なかなか予約は取れませんけどね。』とも。
正直、「談志師匠の破天荒イメージと志の輔師匠のがってんイメージ繋がらないなぁ。」という感想w。どうも 色々とイメージは間違っている模様。
しかし、そう言われると燃えます。
私の落語初体験は是非とも志の輔師匠に捧げたい。是非。
とちょっと強めに思ったらふと数週間後にそのチャンスがやって来た。
『志の輔らくご in PARCO』へぇ〜。
毎年やってるんだ。え、これから先行予約なの?そりゃ予約するでしょ〜〜〜。
ってことで。ぽち。予約。
想像していたよりもあまりにも順調にあっさりと。
今考えるとあの時の自分の運の良さと、それがどんなに有り難い事なのかを滔々と言い聞かせて、なんて軽々しい奴なんだと説教をたれてやりたい。と、同時に良くやった!!と褒めてあげたい。
「いや〜。遂に私も落語を生で聴くのかぁ〜…。超期待!どんな笑いが待ってるんだろ。何か予習しておかないと分からない事とかあるかな…。どんな落語ルールがあるんだろ…。でも分かりやすいって言ってたし、ま、とにかく初笑いって事で楽しむか!」
そんなノリで挑みました。
1月7日(土)当日。
いくつ噺すのかも知らない。2つくらいかな。1時間半くらいで終わるのかな。
最後尾の席ながら、舞台の間合いにはちゃんと入っている距離。パステルカラーの舞台に志の輔師匠が現れました。
まず噂の創作落語を2つ。
ハハハハハ〜すげ〜何でこんなに面白いお話し作れるの?商店街の会長さん、優しい人ねハハハ〜'`,、('∀`) '`,、
はぁ、あ、まだあるのね。あれ、一つのお噺って結構長い時間やるんだね。
さっきちょっと一瞬落ちちゃったww。
それにしても何だか皆さん着物着てたり、ピアノの発表会みたいな格好ておめかししてるなぁ。新春の気合いって感じ。もしかしてちょっと買い物ついでに寄りましたよ。みたいな私の格好浮いてません?
休憩を挟み、第2部が始まる。
話し始める志の輔師匠。
なんか空気が…さっきと緊張感が違う…。
あ、落語に入った。
「おい、あいつはどうした?きゅうぞう え?臥せってる??風邪か?」
「え、3日間 飯も食わない?おい、本当にどっか悪ぃのか?」
あれ、これ聞いた事あるやつかも…。
何でよりによって知ってるやつ…ちょっとがっかり…。
「飲まず食わず3年で15両!!こうはしちゃいられねェ!」
...
....
....
「あいあい」
....
...「きゅうさん 元気?」
「 は い」
この間、約45分間。
志の輔師匠はふかふかの座布団の上で深々とお辞儀をした。
世界がひっくり返った様だった。
言葉とは違う音波の様な意味と感情を持つ気配の様な物が私の脳みそを満たして痺れてフワフワ重力を感じない。
情動の箍が消えていくのが分かる。徐々に無防備な状態になっていくのが分かる。どうしても抗えない。視線と集中を外せない。
唯一自分の存在を意識するための意識が侵入してくる何かに焦りながら「たった一人なのに、たった一人の人が話しているだけなのに。これは他人がたった一人で話している作り話なのに…。」息も絶え絶え、繰り返し 繰り返し言い聞かせていたのをハッキリと覚えてる。
興奮した猫が自分を落ち着かせる為に突然毛づくろいをし出す気持ちがよく分かった。
意識はどんどん遠くなり、何の意味も成さない焦りはあるが、何かが内側から呑まれて溢れて押し出されて涙が流れ出た。
ただ聴こえるのは、感じるのは、志の輔師匠が創り上げる緊張感の様な気配と 感情?あれは一体なんだったんだろう。
考えれば考えるほど、あの時志の輔師匠の声が聴こえていたのか、頭に直接語りかけられていたかの様な感覚こそあるが音の記憶はない。
落語で涙するだなんて微塵も考えた事なかった。私は初笑に来たの。
完全に不意打ち。
1月7日から約2ヶ月経過した今も、またあそこに行きたい一心で、あそこに連れて行って欲しい一心で、あれに呑まれたくて志の輔師匠に会いたくて、CDでもYoutubeでも志の輔師匠の声に体が、反射神経が反応する。
もっとあの世界に連れて行って欲しくて、落語が聴きたくて、もっと新しい世界が見たくて、他の噺が聴きたくて、生で聴きたくて、今、行きたい。
この日記を書いている今も、これから当分の間 全く収まりがつく状況ではない。
すごいモノに出会ってしまった。
私には仕事もあるのに、マクロスだって30周年なのに、エヴァンゲリオンだって秋に公開なのに、写真だって撮りたいのに。彼氏だってそろそろ探そうかと思ってるのに。一体これ以上どこに落語に割く時間がある?ねぇ、今度は誰から聴けばいい?
完全に動揺している。
頭の中はそんなどうでもいい色んな事で行ったり来たり。バカでしょw。自分でもそう思う。どうこの発作と上手く楽しみながら付き合えるか。日記に書いて整頓するの、本当は勿体無い。
訳が分からなく欲望の赴くまま志の輔師匠の噺を探し、聴き漁った。『紺屋高尾』も探した。志の輔師匠のお噺は出て来なかったが、立川談志師匠の『紺屋高尾』が出てきた。
こんな気持ちになってしまった今、志の輔師匠が師匠と仰いだ談志師匠の噺は恐ろしくてずっと聴けていなかった。
私が落語に出会う数ヶ月前、ニュースで「談志が死んだ」のを見た。あの時はあんなに簡単に思っていたけど、今は違う。聴いてしまう事が恐ろしい。何度も躊躇しながら、勿体無い様な気持ちがしながら、恐る恐るやっと聴いてみた。
聴き終わった時、私は胃袋に漬物石が放り込まれた様な気持ちだった。大変な事に気がついた。志の輔師匠がどんな気持ちで今年のお正月に『紺屋高尾』を演ったのか。
恐る恐る聴いた談志師匠の『紺屋高尾』は、私がパルコで聴いた『紺屋高尾』そのものだった。
また 泣いた。